毎月一回の頻度で更新を予定している本企画は、ヨシキ&P2が運営する店舗、及びオンライン・ショップで扱う製品について、フィールド・インプレッションを通じてそれぞれが備える機能的な特徴について掘り下げていきます。
案内役は、ヨシキ&P2・スタッフであり、登山ガイドとしても活躍する吉野時男、アウトドアライターの村石太郎のふたり。長年にわたる登山経験と幅広い知識をもとに、より多くの登山者の知識向上につなげていきます。その第二回目となる今月は、夏山で着るためのベースレイヤーについて5モデルを紹介します。
[検証アイテム]
- ■ Patagonia
「Men’s キャプリーン・クール・トレイルシャツ」(半袖)
「Men’s ロングスリーブ・キャプリーン・クール・トレイルシャツ」(長袖)
- ■ mont-bell
「クール ショートスリーブジップシャツ Men’s」(半袖)
「クール ロングスリーブジップシャツ Men’s」(長袖)
- ■finetrack
「ドラウトクワッド ジップT Men’s」(半袖)
「ドラウトクワッド ジップネック Men’s」(長袖)
- ■ Icebreaker
「M200 オアシスSSクルー」(半袖)
「M200 オアシスLSクルー」(長袖)
- ■ Super Natural
「snロゴTシャツ」(半袖)
「マウンテンI.D. Tシャツ長袖」(長袖)
- 5段階評価の項目について
結論/状況にあわせた2種類のベースレイヤーを用意する
最初に結論を、申し上げてしまおう。まず第一に、個々の体質だけでなく、季節や山域、天気、運動強度を考慮しながらベースレイヤーを選んでいただきたい。
そのうえで、調査を担当するふたり、吉野時男(以下T1)、村石太郎(以下T2)は、テストを通じて、1泊以上の登山ならば、自身の体質にあったベースレイヤーで歩きはじめ、予備の着替えには異なる性質のベースレイヤーを用意するという提案を行いたいと考えている。
個々の体質とは、汗っかきだったり、それほど汗をかかなかったり、もしくは寒がりだったり、暑がりだったり、ということである。調査員T1は運動強度が高いアクティビティを行うことが多く、発汗量も多めだ。いっぽう調査員T2は、北アルプスでのテント泊縦走のような登山を好み、それほど多くは汗もかくことはない。こうした体質とアクティビティの違いを理解して、ウェア選びに反映できることが望ましい。
具体的な例を示すと、調査員T1は汗をたくさんかくことが多いため、夏山では純然たる化繊派である。しかし、今回の考察を経て、寒くなってきたり、運動量が落ちてきたときにウールのベースレイヤーを予備で持っているといろいろな状況に対応できそうだと考えるようになった。
いっぽうの調査員T2は、街中での日常生活を含めて、365日を通してメリノウール愛用者している。登山では、予備の着替えにもメリノウールを持っていたのだけれど、汗がしたたるような夏山であれば、この予備を、涼しさを体感できるクーリング機能を備えた化学繊維製のモデルにしてみよう。そんな提案をしていきたいと思うのだ。
※本記事は、製品に優劣や順位をつけるものではありません。アウトドアショップ「ヨシキ&P2」にて取り扱いの製品を、各登山者のスタイルや好みにあわせて購入するための手助けとなることを念頭に企画をしております。また、価格や製品概要は記事更新時(2023年春夏シーズン)の情報です。
ベースレイヤーに求められる機能とは?
登山中、濡れた衣服を着続けていると体が冷えてしまい、状況によっては低体温症の危険性が高まる。これを防ぐため、ベースレイヤーには、かいた汗を吸いとって、素早く乾燥することで、肌面をなるべく乾燥した状況に近づける吸汗速乾性が求められている。
行動を終えたあと、日の光が傾くとともに、街中では想像できないほど気温が下がることを多くの登山者が経験しているだろう。盛夏であっても、山上で濡れたままの衣服を着ていると体が震えだすほど冷やしてしまうこともある。
こうした状態にならないように吸汗速乾性に優れたベースレイヤーを着て、肌面をなるべく乾いた状態にすることで体温低下を防ぐのである。
なお、近年のベースレイヤーは、大別してふたつの種類を手にすることができる。そのひとつがポリエステルをはじめとした化学繊維を使った製品であり、もういっぽうは天然繊維のメリノウール(羊毛)を使った製品である。
■ Patagonia (素材/ポリエステル100%)
「Men’sキャプリーン・クール・トレイルシャツ」(半袖)
「Men’sロングスリーブ・キャプリーン・クール・トレイルシャツ」(長袖)
- 「Men’sキャプリーン・クール・トレイルシャツ」
- 価格/5,830円(税込み)
- 重さ/150g サイズ/XS~XL カラー:全4色
- 「Men’sロングスリーブ・キャプリーン・クール・トレイルシャツ」
- 価格/7,150円(税込み)
- 重さ/193g サイズ/XS~XL カラー:全3色
- フィット感、動きやすさ/★★★★★
- 吸汗速乾性/★★★★☆
- 通気性/★★★☆☆
- 汗冷え感/★★★★☆
【調査員が気に入ったところ】
・機能的なバランスがよく、柔らかな肌触りの素材
・素晴らしいフィッティング
・普段着としても違和感のないデザイン
【こんな人や状況でこそ着たい】
・登山はもちろん、街中でも着続けたい着たい人
5モデルを集めたなかから、まずはじめに袖を通したのが、吸汗速乾製に優れたポリエステル100%のパタゴニア「Men’sキャプリーンクール・トレイルシャツ」(検体A)であった。着た瞬間に心地よさを感じるカッティングは、長年にわたってシリアスなアウトドアウェアとともに、日々の生活でも気分を高揚させるようなライフスタイル・ウェアを手がけてきた同社ならではの素晴らしさである。
実に着心地がよく、日常でも着ていたくなるようなスタイルである。それでいて、登山中にもストレスを感じることがまったくない。長袖の「Men’sロングスリーブ・キャプリーンクール・トレイル・シャツ」においても、袖口がきれいにすぼまり、登山中にストレスを感じることは皆無である。
斜面を少し早足で登っていくと、額からも汗がしたたりはじめ、影信山の茶屋に到着するころには全身にじっとりと汗をかいていた。このときの気温は、標高720mほどの茶屋付近で24.5度℃。湿度は85%前後であった。
風が吹くと、汗で濡れたところが肌に触れて、ひんやりと冷たく感じる。少しずつ乾きはじめたと感じたのは15分が経過した頃である。じっとりと濡れた背面が乾くためには30分ほどが必要であった。
テストをはじめて数週間後、5モデルを着用してきた調査員T1は、献体Aが「普段着としても心地よく、もっとも肌触りが気に入っている」とコメントする。機能的にバランスがよく、素晴らしい裁断によってストレスを感じることがない。そのため、登山中はもちろん、下山後も違和感なく着続けられるのが特徴だ。このスタイルは、街中など日常生活でも着やすい。
■ mont-bell (素材/ポリエステル100%)
「クール ショートスリーブジップシャツ Men’s」(半袖)
「クール ロングスリーブジップシャツ Men’s」(長袖)
- 「クール ショートスリーブジップシャツ Men’s」(半袖)
- 価格/4,620円(税込み)
- 重さ/110g サイズ/S~XL カラー:全5色
- 「クール ロングスリーブジップシャツ Men’s」(長袖)
- 価格/5,060円(税込み)
- 重さ/135g サイズ/S~XL カラー:全5色
- フィット感、動きやすさ/★★★★☆
- 吸汗速乾性/★★★★☆
- 通気性/★★★★★
- 汗冷え感/★★☆☆☆
【調査員が気に入っているところ】
・肌に張りつかないサラリとした肌触り
・驚くほど風とおしがよく、涼しい素材
【こんな人や状況でこそ着たい】
・夏山で暑さ対策を優先したい人や状況
茶屋のベンチに座りながら、30分ほど検体Aの乾きぐあいを確かめたあとで手にとったのがモンベルの「クール ショートスリーブジップシャツ Men’s」(検体B)である。おうとつ感があって、肌に触れる接地面を少なくした裏地側はサラリとしており、通気性に富んだ生地は、驚くほど風が抜けていく。
いったん登山口あたりまで戻った僕たちは、下ってきた道をふたたび登りはじめた。体温が上がりはじめても、体熱が衣服内にこもるような感覚はまったくない。フロントジッパーを全開にすると、さらにクーリング効果が高まった。
検体Bが採用しているのは、ポリエステル100%の独自素材「ウィックロン クール」である。優れた吸汗速乾性に加えてクーリング効果を備える検体Bは、夏山の中低山などとくに気温が高い状況に最適であろう。とくに汗をかきやすいという登山者は、これまで以上に快適な登山ができるであろう。
■ finetrack (素材/ポリエステル63%、複合繊維(ポリエステル)37%)
「ドラウトクワッド ジップT Men’s」(半袖)
「ドラウトクワッド ジップネック Men’s」(長袖)
- 「ドラウトクワッド ジップT Men’s」(半袖)
- 価格/7,370円(税込み)
- 重さ/115g カラー:全4色
- サイズ/S~XXL(XXLはカスケードブルーのみ)
- 「ドラウトクワッド ジップネック Men’s」(長袖)
- 価格/8,030円(税込み)
- 重さ/140g カラー:全4色
- サイズ/S~XXL(XXLはカスケードブルーのみ)
- フィット感、動きやすさ/★★★☆☆
- 吸汗速乾性/★★★★★
- 通気性/★★★★☆
- 汗冷え感/★★★★☆
【調査員が気に入っているところ】
・グリーンシーズンならば、ほとんどの山域に対応できる素材
・吸汗速乾性と通気性、耐久性の良好なバランス
【こんな人や状況でこそ着たい】
・季節やアクティビティを問わず一枚で対応したい人
寒いときと、暑いときのバランスがとても良い。そう感じるのがファイントラック「ドラウトクワッド ジップT」である。少し残念だったのは、調査員Bが着用していたロングスリーブの袖口まわりについて、「もう少しフィット感が高まればいいな」と感じたことである。
検体Bのように涼しい風が抜けていくような感覚はなく、気温が高い状況では多少熱がこもるような感覚もある。しかしこれは、汗をかいたあとに感じる、汗冷えを軽減することにもつながっているのである。春先から晩秋の低山のほか、盛夏の高山帯など幅広い状況で快適に行動することができるだろう。一枚で、すべての登山に対応させたいというような人は、まず手に取ってほしい一着だ。
さらに、同社製の「ドライレイヤーベーシックT」(別売/税込み4,950円)を地肌に着て重ねてみると、濡れているという感覚がまったく感じられなくなる。同社のドライレイヤーとは、ベースレイヤーのさらに下に着るために開発された耐久撥水性ウェアである。かいた汗を素早く肌から遠ざけるための耐久撥水加工が施され、これにより汗が蒸発することで起こる“汗冷え”を防ぐという目的のため作られている。連続した降雨が予想されるような登山で重ねて着れば、不快感も大幅に軽減されるのだ。
なお、ヨシキスポーツの店頭では、よりクーリング効果を狙った「ラミースピンエア・ジップT Men’s(税込み8,030円)」も扱っているので登山エリアや目的などに応じて選んでいただきたい。
調査員T1&T2について
吉野時男(調査員T1)
取締役専務。学生時代は競技スキーに没頭し、現在はテレマークスキーをはじめ、ロッククライミングからファストパッキング、アイスクライミング、さらに家族と一緒にでかけるデイハイキングやキャンプまで幅広くアウトドアスポーツを楽んでいる。
日本山岳ガイド協会認定「登山ガイド」であり、ショップセミナーなども担当する。汗をかきやすい体質から、夏山ではおもに化学繊維製のベースレイヤーを着用している。
村石太郎(調査員T2)
ヨシキスポーツに勤務する傍ら、本業ではアウトドアライターとして登山専門誌などで活躍している。四半世紀にわたりアラスカの北極圏での遠征活動を続けるとともに、世界中を飛び回るなどアウトドアスポーツに広く精通する。
カヤックツーリングやパックラフティングなどウォータースポーツにも造詣が深く、一年の半分はバックカントリースキーのことばかりを考えている。大量の汗をかくことは少なく、365日、通年にわたって肌に触れるものはメリノウールを着用している。
■ Icebreaker (素材/メリノウール100%)
「M200 オアシスSSクルー」(半袖)
「M200 オアシスLSクルー」(長袖)
- 「M200 オアシスSSクルー」(半袖)
- 価格/13,200円(税込み)
- 重さ/N.A. サイズ/S~L カラー:全3色
- 「M200 オアシスLSクルー」(長袖)
- 価格/13,750円(税込み)
- 重さ/N.A. サイズ/S~L カラー:全3色
- フィット感、動きやすさ/★★★★★
- 吸汗速乾性/★★★☆☆
- 通気性/★★★★☆
- 汗冷え感/★★★★★
【調査員が気に入っているところ】
・伸縮性とフィット感が高く、体の動きに見事に追従する
・天然素材ならではの優しい着心地と機能性
・汗をかいても汗冷えしづらい
【こんな人や状況でこそ着たい】
・ほとんどの状況で、あまり大量の汗はかかない人
・暑さ対策より汗冷え対策を優先したいとき
優しい着心地で、断トツの着心地が得られるのがアイスブレーカー「M200 オアシスSSクルー」(検体D)である。ここまでの3検体がポリエステル100%で作られていたのに対して、メリノウール100%素材を採用しているのも特徴だ。若干の余裕を持たせながら、よく体にフィットするスタイルであるけれど、ウールがもっている豊かな伸縮性によって一切のストレスを感じることなく体を動かすことができる。
メリノウールが本質を発揮するのは、まもなく景信小屋に戻ってこようとした頃であった。雷がゴロゴロと轟きはじめたかと思ったら、大粒の雨が降ってきた。大急ぎで屋根のある東屋に走り込み、そこで雨があがるのを待つことにした。そのとき温度計を見ると、急激に気温が下がりはじめたのである。しかし、汗をかいているのに体温が低下することはない。体がポカポカとあたたく感じるほどなのである。
一般的に化学繊維製のベースレイヤーは、汗を吸ったあとで素早く乾いていく。しかし、汗が水蒸気になるときにエネルギーが必要となり、気化熱として体から熱が奪われてしまう。これが、いわゆる“汗冷え”の原因であるのだけれど、メリノウールの場合は徐々に乾燥していくため“汗びえ”を感じることはほとんどないのである。
その秘密は、ウールの繊維構造にある。水分を寄せつけず、うろこ状になった表皮(スケール)と、親水性に優れたタンパク質でできた内部(皮質部)の2重構造になっており、表面はつねにサラサラとした感触を保つ。かいた汗は内部の皮質部が吸収するが、皮質部にたまった水分は徐々に蒸発する。このため汗びえの原因となる気化熱が生じにくくなるのである。
普段からメリノウールを着ている調査員Bは、寒いときにはあたたかく、暑いときには涼しく感じるという天然素材ならでは機能性を再認識しながら、伸縮性に富んだ着心地のよさに惚れ直すのであった。「夏にウールなんて」といぶかしむ読者もいるかもしれないが、こうした機能性のとりこになってしまった調査員T2は「夏こそウールを着てもらいたい」と大きな声で伝えたいと思っている。
ただし、短所もあり、夏山で大汗をかいてしまうというような人にはおすすめしない。汗を吸収しきれず飽和して、ずっしりと重くなってしまうなど不快感を感じてしまうのだ。こうした登山者には、ポリエステル製の検体Aや検体B、検体Cなどを選ぶといいだろう。
メリノウールとは
通常の羊毛に比べて、繊維が非常に細いためチクチクとした不快感を感じることがない素材です。スペインが原産の「メリノウール種」という固定品種の羊から採取され、防縮加工が施されているため、かつてのウール製品のように洗濯を繰り返しても縮みません。
洗濯時も、とても簡単。裏返したら洗濯ネットなどに入れて、ほかの衣類と一緒に洗濯機で洗うだけなのです。特殊な洗剤も不要です。ちなみに、多くの人が衣服にかゆみやチクチクとした不快感を覚えるのは繊度30ミクロン(1ミクロンは、1000分の1ミリ)より太い繊維が5%以上含まれるとき。
登山用のメリノウール製品では、通常18.5ミクロンの高品質メリノウールが使用されることがほとんどで、ほとんどの人は不快感を感じることはありません。なお、肌が敏感な人には、17.5ミクロンのメリノウールを使った製品をおすすめします。
影信山の東屋で雨があがるのを待っていると、気温は22度℃まで下がっていった。湿度は計測不能と表示され、湿度100%に近い状況である。
このとき調査員は、気温が低下したことを利用することにした。まだ乾ききらずにバックパックにしまっていた検体A、検体B、検体Cを取り出して、濡れた状態でふたたび着用したのだ。このなかで、とくに寒さを感じたのが検体Bである。クーリング機能が特徴ではあるが、少しでも風が吹くと体温が奪われてしまう。いっぽう検体Aや検体Cについては、多少の肌寒さを感じる程度である。なお、いずれの検体でも乾いた状態であれば、濡れたウェアから着替えたときにはすべて温かく感じるので、こうした状況に備えて乾いた着替えをつねに備えていくことが大切だ。
数日間にわたる登山では、山小屋やキャンプ地に到着したら乾いた着替えを着て、翌朝に出発するときは前日に着ていて完全には乾いていないベースレイヤーを着るというテクニックがある。これを俗に「着干し」などといいって、つねに乾いた着替えを備えるための重要な登山技術なので知識として知っておいてもらいたい。
■ [sn]super.natural (素材/メリノウール50%、ポリエステル50%)
「snロゴTシャツ」(半袖)
「マウンテンI.D. Tシャツ長袖」(長袖)
- 「snロゴTシャツ」(半袖)
- 価格/8,690円(税込み)
- 重さ/N.A. サイズ/S~L カラー:全5色
- 「マウンテンI.D. Tシャツ長袖」(長袖)
- 価格/9,790円(税込み)
- 重さ/N.A. サイズ/S~L カラー:全1色
- フィット感、動きやすさ/★★★★☆
- 吸汗速乾性/★★★★☆
- 通気性/★★★★☆
- 汗冷え感/★★★★☆
【調査員が気に入っているところ】
・柔らかくストレッチする生地
・汗をかいた状態で休憩をしていても汗びえがしづらく、速乾性にも優れている
【こんな人や状況でこそ着たい】
・普段着からフィールドまでオールラウンドに着まわしたい人
最後に袖を通したのがスーパーナチュラルの「snロゴTシャツ」である。薄手であるため涼しさも抜群で、速乾性についてはメリノウール100%の検体Dよりも早いと感じる。
天然素材ならではの優しい肌触りは健在で、冷えも軽減してくれる。さらに、化学繊維が供える速乾性も備えているのだから嬉しいではないか。いっぽう、こもった熱を衣服外へと逃してくれるメリノウールの特徴が若干抑えられているなと感じるのは、ポリエステルとの混紡素材であるから仕方のないことであろう。
ひとつ残念に感じたのは、ショートスリーブ、ロングスリーブともに縫い目が肩まわりにあり、バックパックのショルダーハーネスと干渉してしまうことである。しかし、こうした短所よりも、良好なフィット感のほうが勝っているし、手軽な価格でメリノウールの心地よさを味わえることのほうが長所となっている。日常着としても手にしたい着心地のよさは、どこか検体Aと通じるものがあるというのが調査員ふたりの共通意見である。
ベースレイヤーの重要性
登山において、もっとも重要なアウトドアウェアといわれるのがベースレイヤーである。しかしながら、これから登山をはじめる人にとっては、その重要性はなかなか理解できないであろう。
晴天が終日、もしくは数日間にわたって続き、暑くもなく、寒くもなく、風は穏やかで、時間どおりに目的地に到着することができるのならばコットン製のTシャツに、ジーンズ・パンツでも問題なく登山を終えることができるかもしれない。
だがいったい、そんな快適極まりない登山を我々は何度経験できるのであろう。天候が優れなくても、若くて体力も、気骨にも溢れていれば、どのような格好でも登山を無事に終えられるかもしれない。でも、僕たちが経験してきた登山は、途中で雨が降ってきてしまったり、想像よりも寒くなってしまったことがほとんどだ。稜線に出れば強風が吹き、谷間に入れば日没が早まり気温もどんどんと下がっていく。
そうした状況でも安全に登山を続け、快適に下山するための装備がベースレイヤーであり、最悪の事態に備える最重要装備といわれる所以である。なお、コットン製のTシャツは吸汗性には優れているけれど、なかなか乾いてくれない。そのため、登山には適さないとされている。
各検体には製品スペックとともに、フィット感と動きやすさ、吸汗速乾性、汗冷え感、熱処理性について5段での評価項目を表記した。各評価項目の詳細は以下のとおりとなっているので参考にしていただきたい。各評価基準は、一般スポーツ向けの化学繊維製Tシャツなどとの比較としている。
5段階評価の項目について
・フィット感、動きやすさ/行動時に体が無理なく動かすことができて、ストレスを感じることがないか
・吸汗速乾性/行動時もよく汗を吸って、素早く乾いてくれるか
・通気性/行動時もよく風を通して、熱がこもらないか
・汗冷え感/休憩時に汗をかいて体が冷えないか
記事更新日/2023年7月7日
記録担当/村石太郎
調査担当/吉野時男、村石太郎
Pubulished on July 0,2023
Text & Photographs by Taro Muraishi
Field Tested by Tokio Yoshino, Taro Muraishi
■ T×T Mountain Studio
アウトドアショップ「ヨシキ&P2」が発信するT×T Mountain Studio(ティ・ティ・マウンテンスタジオ)は、雑誌をはじめとした紙媒体、オンライン記事を制作発信するウェブメディアと同様に、アウトドアショップが企画する第3のメディア。
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