fbpx T×T M.S. 第三回/検証「トレッキングパンツ」 | 山とスキーのアウトドアショップ ヨシキ&P2山とスキーのアウトドアショップ ヨシキ&P2

T×T Mountain Studio (吉野時男×村石太郎の山道具検討会)

2023年8月31日

T×T M.S. 第三回/検証「トレッキングパンツ」

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毎月一回の頻度で更新を予定している本企画は、ヨシキ&P2が運営する店舗、及びオンライン・ショップで扱う製品について、フィールド・インプレッションを通じてそれぞれが備える機能的な特徴について掘り下げていきます。

案内役は、ヨシキ&P2・スタッフであり、登山ガイドとしても活躍する吉野時男、アウトドアライターの村石太郎のふたり。長年にわたる登山経験と幅広い知識をもとに、より多くの登山者の知識向上につなげていきます。その第三回目となる今回は、夏山から秋山で着るためのトレッキングパンツについて5モデルを紹介します。

トレッキングパンツに求められる機能

登山者の両脚が受ける、歩行時のストレスを軽減すること。これが、トレッキングパンツに求められる機能であろう。ストレスの軽減とは、強風や低気温、強烈な紫外線をはじめ、トゲのある草木、尖った木の枝などから足を保護するということである。登山道を歩いたり、岩場や段差、倒木を越えるときに両脚の自由な動きを阻害しないことも重要だ。

そのうえで、裾まわりの作りによって足先の視認性が阻害されていないか。アップダウンが比較的少ない低山散策ではそれほど問題にはならないけれど、裾が幅広すぎて片脚で反対側の裾にひっかけてしまうことがないか。こうしたことを、可能であれば店舗内で実際に見て、試着をして確かめられるといいだろう。

近年は、縦方向にも、横方向にも生地が伸び縮みする“4WAYストレッチ”素材を使ったモデルも多く揃えられているので、より本格的な登山を行う人は注目したい。ちなみに、ストレッチ素材と謳っている素材のなかには、縦方向のみ、横方向にのみに伸縮する“2WAYストレッチ”素材もあり、用途や好みに応じて選ぶことができる。

また、生地の厚さも、季節に応じて選ぶことができる。夏季で、森林限界以下の低山域へ訪れるならば、体熱がこりにくい薄手のもののなかでも、とくに通気性に優れ、かいた汗を含んだときに不快感を感じにくい素材を使ったトレッキングパンツを選ぶといいだろう。

より標高が高くて、北アルプスなど森林限界を超えた稜線が続く山域に赴くときは通気性だけでなく、ある程度の耐風性も考慮したい。稜線に出たとたん、急激に気温が下がり、強い風が吹きはじめる状況も考えられるからである。反面、稜線までのアプローチでは、できる限り涼しく行動したいという思いも交差するのだから、なかなか難しい選択ではあるだろう。

いっぽう、晩秋や冬の低山などに赴くときは、裏面起毛を施した保温性抜群のトレッキングパンツもある。アップダウンが多いと、すぐに体温が上昇してしまったり、汗をかきやすかったりするのだけれど、高低差の少ない低山域でのハイキング、旅行などには向いている。ひとつの提案として、冬季の低山域では、ウール製のタイツなどを履いてから、薄手から中厚手ほどのトレッキング・パンツを重ねることで保温性の調整を図ることができるなど、さまざまな状況で着回すことができるのである。

※本記事は、製品に優劣や順位をつけるものではありません。アウトドアショップ「ヨシキP2」にて取り扱いの製品を、各登山者のスタイルや好みにあわせて購入するための手助けとなることを念頭に企画をしています。価格や製品概要は記事更新時(2023年春夏シーズン)の情報です。

■ mont-bell クールパンツ Men’s

  • 価格/7,700円(税込み)
  • 重さ/222g
  • 素材/ナイロン100%
  • カラー/全3色
  • サイズ/XS~XL、ショート丈/M-S、L-S、XL-S、XXL-S、ロング丈/S-L、M-L
     
  • フィット感/★★★★☆
  • 足上げのしやすさ/★★★★☆
  • 足元の視認性/★★★★☆
  • 素材の通気性/★★★★★

【調査員が気に入ったところ】
通気性のよい4WAYストレッチ素材
着脱がしやすい腰ベルトのバックル
視認性に優れた裾のデザイン

【こんな人や状況でこそ着たい】
盛夏から残暑でも快適に歩きたい人
比較的、標高が低めの山域

今回の調査を行うにあたって、調査場所として選んだのは山梨県と長野県の県境となる大弛峠から金峰山へと向かうルートであった。スタート地点の標高は、約2,365m。日本で一番高い車道の峠であり、峠周辺の樹林帯から標高2,599mの金峰山までへといたる登山道が敷かれている。

当日の天候は晴れ。調査を開始した午前8時の気温は23度℃。酷暑の都心部から訪れると、少し肌寒さを感じるほどである。気温は、昼頃には30度近くまで上昇しており、盛夏から秋口までの季節を再現してくれる環境である。

調査員のふたりが最初に手に取ったのは、モンベルの「クールパンツ Men’s」(検体A)であった。通気性に優れた4WAYストレッチ素材は、汗をかきはじめたあとも、風がよく抜けて、とても快適だ。気温が比較的高い時期の低山域などに最適であろう。

足元の視認性にも優れ、汗をかいてくると腰回りに若干のもたつきを感じたけれど、太腿まわりのフィット感も上々だ。細かなところであるが、腰のベルトにつくバックルの作りも素晴らしい。片手で手前に引くだけで素早く着脱ができ、実に扱いやすい。

豊富なサイズ展開も、特出すべきであろう。XSからXLサイズの通常サイズに加えて、腰回りを同寸としながら裾丈を短めに設定したM-SからXXL-Sサイズ、同じく腰回りを同寸としながら裾丈を長めに設定したS-LとM-Lサイズと、合計11サイズを展開している。腰回りはレギュラーサイズがちょうどいいけれど、もう少し丈が短かったら、丈が長めだったらとか、体型のほか、好みにあわせて用意されている。

■ Foxfire Cシールドパンツ

  • 価格/12,980円(税込み)
  • 重さ/300g
  • 素材/ポリエステル89%・ポリウレタン11%
  • カラー:全3色
  • サイズ/S~XL
     
  • フィット感★★★★☆
  • 足上げのしやすさ/★★★★★
  • 足元の視認性/★★★★☆
  • 素材の通気性★★★★★

調査員が気に入っているところ
風が吹き抜けるような通気性
視認性に優れた裾のデザイン
よく伸び縮みする4WAYストレッチ素材

【こんな人や状況でこそ着たい】
盛夏から残暑でも快適に歩きたい人
暑がりで涼しいパンツが欲しい人
比較的、標高が低めの山域

検体Aよりも、さらに涼しさを演出してくれるのが、フォックスファイヤー「Cシールドパンツ」(検体B)である。特殊セラミック繊維による遮熱効果によって、衣服内温度を3度℃ほど下げてくれる「コカゲシールド」素材を採用したモデルである。今回検証した5モデルのなかで通気性がもっとも高く、蒸し暑くなりがちな森林限界以下であっても、とても快適であった。

比較的ゆったり目のレギュラー・フィットを採用しており、太腿まわりも、腰まわりも若干ゆったりめに作られている。足上げのしやすさも良好で、足元の視認性にも優れている。 世界的な気温上昇が報告されるなか、残暑において登山中の熱中症に注意しなければならない状況が続くことが予想される。とくに中低山域において、ショーツ(半ズボン)は履きたくないけれど、できるだけ涼しく歩きたいという登山者にとって最適な選択となるだろう。

調査員T1&T2について

吉野時男(調査員T1)

取締役専務。学生時代は競技スキーに没頭し、現在はテレマークスキーをはじめ、ロッククライミングからファストパッキング、アイスクライミング、さらに家族と一緒にでかけるデイハイキングやキャンプまで幅広くアウトドアスポーツを楽んでいる。

日本山岳ガイド協会認定「登山ガイド」であり、ショップセミナーなども担当する。学生時代からスキー競技で鍛えた足により、太腿まわりが太いため、体型にフィットするトレッキングパンツがなかなか見つけられないのが悩み。

村石太郎(調査員T2)

ヨシキスポーツに勤務する傍ら、本業ではアウトドアライターとして登山専門誌などで活躍している。四半世紀にわたりアラスカの北極圏での遠征活動を続けるとともに、世界中を飛び回るなどアウトドアスポーツに広く精通する。

カヤックツーリングやパックラフティングなどウォータースポーツにも造詣が深く、一年の半分はバックカントリースキーのことばかりを考えている。陸上競技の中長距離選手として学生時代を過ごしており、腰や太腿まわりは細めであるけれど筋肉質。

■ astri マチヤマパンツ

  • 価格/15,620円(税込み)
  • 重さ/N.A.
  • 素材/ナイロン90%・ポリウレタン10%
  • カラー:全3色
  • サイズ/M〜XL
     
  • フィット感/★★★★☆
  • 足上げのしやすさ/★★★★☆
  • 足元の視認性/★★★★★
  • 素材の通気性/★★★☆☆

調査員が気に入っているところ
高山域で安心感が高い素材
非常に細身で、足元の視認性が抜群
驚くほど伸縮する4WAYストレッチ素材

【こんな人や状況でこそ着たい】
一枚でオールラウンドに対応したい人
細身のシルエットでも、動きやすいパンツを求めている人
稜線で強風が吹くような状況が予想されるとき

風が吹き抜けるような検体Aや検体Bに対して、ほとんど通気性を持たない素材を採用しているのがアストリ「マチヤマパンツ」(検体C)であった。

製品名は、“街なか”でも、“山のなか”でも違和感なく履けることを目指したことに由来するネーミングである。太腿まわりから裾まわりまで、とても細身に作られており、足元の視認性も抜群だ。足を上げたときに少しだけ太腿まわりが引っかかるような印象も受けるけれど、5検体のなかでもっともよく伸縮する4WAYストレッチ素材によってストレスを感じることはない。

当検体が、その実力を発揮したのは本調査のあと、北アルプスの稜線歩きにでかけたときであった。雨雲が立ちこめるとともに気温が下がりはじめ、強風が吹いてきた。こうしたときに体温低下を防いでくれる素材に、抜群の安心感を与えてくれたのである。

ちなみに、森林限界を超えた稜線などで絶えず風に吹かれているような状況では、通気性に優れた検体Aや検体Bでは寒さを感じることもあったことを加えておこう。

また、夜明け前など朝早くに出発するときにストレスを感じることといえば、草木についた朝露が生地に染み込んでしまうことであろう。検体Eのみ、たっぷりと水を含んでしまったものの、ほかの検体については洗濯を数回繰り返したのちに水をかけ続けていても水分を吸収せず、生地表面で水滴がコロコロと転がっていった。

■finetrack トルネードパンツ(Men’s)

  • 価格/18,480円(税込み)
  • 重さ/295g
  • 素材/ナイロン100%
  • カラー:全3色
  • サイズ/S〜XL
     
  • フィット感/★★★★★
  • 足上げのしやすさ/★★★★★
  • 足元の視認性/★★★★★
  • 素材の通気性/★★★★☆

調査員が気に入っているところ
ストレスをまったく感じない見事な立体裁断
とくに横方向によく伸びる4WAYストレッチ素材
多少の降雨であれば気にならないほどの高い撥水性

【こんな人や状況でこそ着たい】
岩稜帯をメインにしながら、通常の山歩きでも使いたい人
動きやすさと耐久性を優先したい人
クライミングから一般登山まで幅広く履きたい人

もともとはクライミング向けに作られたというファイントラック「トルネードパンツ」(検体D)は、一般登山でも実に活用しやすい一着である。サラリとした印象の素材は、汗をかいてきたあともベトつくなどの不快感はなく、腰回りのだぶつきなども感じない。足元まわりの視認性にも優れており、ストレスを感じることは皆無だ。

通気性は抑えめであり、盛夏の低山域では不快に感じる状況もあるかもしれない。3つの検体を履いたあとで、当検体で歩きはじめた調査員Aは、「シルエットは細く見えるけれど、太腿の周囲がある自分でも窮屈感はない」と安心した様子だ。実は、これまでの3検体では、調査員Aの太腿まわりには余裕がなくなってしまっていた。その様子は、各検体を着た写真から確認していただきたい。

岩の割れ目を登るクラック・クライミングにおいて、岩面と擦れながら登るとき「まったく不安のない耐久性があって、クライミング・ハーネス、バックパックのヒップベルトにも干渉しないところも調子がいい」と調査員Aはさらなる感想を付け加える。さらにカラーパンツに目がないふたりは「カラーリングもいい」と声を揃えた。

また、先の撥水テストにおいて、面白いほど水分を弾いていたのが検体Dである。あくまでも簡易的なテストであり、より実情に即した実地調査が必要ではあるけれど、多少の降雨であれば気にすることなく歩けるほどの撥水性を発揮していたことが印象的だ。なお、検体Dの耐久撥水性は、洗濯を100回したあとでも撥水度80点以上を保つ“100洗80点”以上の機能を備えている。

■MILLET ワナカストレッチ・パンツII

  • 価格/11,990円(税込み)
  • 重さ/290g
  • 素材/ポリエステル87%・ポリウレタン13%
  • カラー/全5色
  • サイズ/XS〜L
     
  • フィット感/★★★★☆
  • 足上げのしやすさ/★★★★★
  • 足元の視認性/★★★☆☆
  • 素材の通気性/★★★★☆

調査員が気に入っているところ
スマートフォンが入る右腿のポケット
縦方向によく伸縮して、とても肌触りのよい素材
バランスのよい通気性と耐風性

【こんな人や状況でこそ着たい】
豊富な体力を備え、早いペースで歩きたい人
足の動きを妨げたくない人

サテンのような生地で、サラリとした肌触りが印象的なミレーの「ワナカストレッチ・パンツII」(検体E)は、履いた瞬間に涼しさを感じるモデルだ。伸縮性に富んでおり、サラリとした着心地と相まって非常に動きやすい。太腿まわりはピッタリとしているが、調査員Bは「足元まわりが、もう少し細いといい」と感じていた。

通気性に優れると同時に、標高3,000m前後の稜線上でも風が抜けすぎるということがなく実に快適だ。通気性と耐風性のバランスがとても良いのである。

なお、当モデルと検体Bについてはベルトループがついており、手持ちのベルトなどを使ってウェスト幅を調整するようになっている。ほかの3検体は、バックルつきのウェストベルトが付属しているので、このあたりは好みに応じて選ぶよいだろう。なお、調査員のふたりは、クライミングハーネス、バックパックのヒップベルトとの干渉を軽減できるため、バックルつきのウェストベルトを履くことが多い。

残念ながら、多くの登山者はトレッキングパンツに比べて、上半身に着るためのハードシェル・ジャケットやフリース・ジャケットといったアウトドアウェアに、より多くの金銭を費やしているように見受けられる。無論、ジャケット類も重要ではあるのだけれども、歩くという行為に他ならない登山においては、足回りの装備について、より慎重に選んでもらいたい。そのための参考として、本記事が参考になれば幸いだ。

各検体には製品スペックとともに、フィット感と足上げのしやすさ、足元の視認性、素材の通気性について5段での評価項目を表記している。各評価項目の詳細は、以下のとおりとなっているので参考にしていただきたい。各評価基準は、一般スポーツ向けのジャージーパンツなどとの比較とした。なお、フィット感については体型や体格によって変わるため、あくまでも調査員ふたりの意見として参考にしていただきたい

5段階評価の項目について

・フィット感/腰回りや股下、膝まわりに違和感がなく、汗をかいたときに拠れたりしないか。
・足上げのしやすさ/登り道、降り道において、膝まわりなどにストレスはないか。
・足元の視認性/岩稜帯や細い樹林帯などで足元は見やすいか。
・素材の通気性/気温が高い状況で、登山中に発する熱を逃してくれるか。

記事更新日/2023年8月31日
記録担当/村石太郎
調査担当/吉野時男、村石太郎

Pubulished on  August 31,2023
Text & Photographs by Taro Muraishi
Field Tested by Tokio Yoshino, Taro Muraishi

■ T×T Mountain Studio

アウトドアショップ「ヨシキ&P2」が発信するT×T Mountain Studio(ティ・ティ・マウンテンスタジオ)は、雑誌をはじめとした紙媒体、オンライン記事を制作発信するウェブメディアと同様に、アウトドアショップが企画する第3のメディア。

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